09.THE FREEZING FLOWER
浦原の提案で始めた気配を探る為の訓練―――目隠し鬼―――の初日、は 散々な目にあった。
――――あんなふざけた“遊び”がホント訓練になってんの?
訓練を口実に 浦原にからかわれているのではないかと思う。
――――つかまえられないなら“所構わず
KISS”なんて、シャレになんないっ!
かと言って、拒める立場にないのも身に沁みた。
一度、感情が高ぶったせいか 岩山を吹き飛ばしてしまったから。
目隠しされていたので どうしてそうなったか自身は目にしていないが、浦原の感嘆ぶりと岩の崩れる音と衝撃でなにかとんでもない事をしてしまったのはわかった。
――――あんなの、普通じゃない。
言われた通りにする以外選択肢がなかった。
けれど、それと身体を許すのとは別問題。
次の訓練では いよいよヤバイ事になるのではと 必死に自主トレに取り組み始めた。
ジン太とウルルに 用意してもらった金魚鉢の金魚を目標に目隠しで障害を避けながら近づく。
金魚を相手にと考えたのは苦肉の策だった。
浦原に『制御しきれない力で うっかり 消してしまうかもしれない』と指摘されたので、ジン太やウルルは勿論 りりんたちにさえ自主トレの相手を頼めない。
知らなかったとは言え りりんたちには一度酷い目に遭わせている。
小さな金魚相手では その存在を探りにくいかと思ったが、の力は水と同調するらしく 意外に捉えやすいとわかった。
ところが金魚鉢の位置はつかめても、無機質な障害物の把握が難しくて それらにぶつかって作る青痣は増える一方だった。
次に 浦原が来るまでに上達しておきたいのに 焦れば焦るほど集中を欠く。
は 大きく息を吸って ゆっくり吐き出した。
――――落着け。がむしゃらに突っ走って手に入るもんじゃない。気を静めろ。あんな スケベ親父には 負けられない。
もともと転がっていた岩と ランダムに配置した椅子やテーブルの存在感を感じようとする。
『魂魄のない物質であっても、それがそこに存在する為のエネルギーを持っています。
それを感じてください。
わずかな空気の流れが ヒントをくれているでしょう?』
浦原のアドバイスを思い出す。
地下勉強部屋は 地上ではありえないほど、寂しいくらいに無音だったから 金魚の泳ぐ音が聞こえるような気がした。
何度目かの一歩を踏み出そうとした時、地上からの来訪者の気配を感じた。
―――――誰?・・・これは・・・・浦原商店の人じゃない。
耳を澄まして息を止めた。
期待で胸が早鐘を打ち出す。
その懐かしい気配は、身のこなしも軽く 目の前に降り立ったようだった。
緊張のあまり目隠しをとるのも忘れて身構える。
「今度は 何を始めたんだ?」
その声は、直接胸を射抜いた。
――――ひ、、久しぶりってのに、なんて言い草!?
別に『会いたかった』なんて言えって言わないけど
もうちょっと、こう・・・・『元気してたか?』とか、『来れなくて 悪かった』とか、言えないのか!
は、気付いていなかった。
子供っぽく思われるのがイヤであえて低く発せられる声を聞く前から、現れたのが冬獅郎だと 気配だけで確信できた事を。
あんなに会いたかったのに いざとなると心が落着かない。
「キ、キミには関係ない。」
「はぁ? 忙しい合間をぬって来てやったのに――――」 「なにソレっ? ムリに来る必要ない!」
――――別に頼んでもないのに『ずっと傍にいて守ってやる』っつったのは ドコのどいつだよ!
あんなコトいうからっっ! くそっ。
「痛っ!」
苛立ちながら 歩き出したは 障壁として配置していたベンチに 思いっきりぶつかった。
「 あぶねー!」
空をかいたの手を 冬獅郎がつかんで、引き寄せた。
の脳裏に浦原との特訓がよぎり、咄嗟に唇を死守しなければと身体が反応する。
「放せっ!」
待ち焦がれた感触に安堵する自分への腹立たしさも加わって、思いっきり撥ね退けた手のひらに意識が集中する。
「ヤバイ」と思った時には 乾いた破裂音と共に冬獅郎を弾き飛ばしていた。
「とうしろ――――――っ!」
―――――ショウメツ? ショウメツ? ショウメツ? ショウメツ? ショウメツ? ショウメツ? ショウメツ? ショウ――――
は 引きちぎらんばかりに目隠しをとって冬獅郎を弾き飛ばしたであろう方向を凝視した。
土煙がたっていて 冬獅郎の姿が見えない。
「・・・・・・うそ・・・・・うそだ・・・・・」
―――――あたし・・・・・冬獅郎を・・・・・・
土煙の中へ ふらふらと踏み込んだ。
「・・・・・・とうしろう?」
視界が開けた先に見えたのは 氷の塊。
―――――あんなの作って ぶつけちゃったってわけ?
氷塊が ミシリという音と共に砕けると そこに冬獅郎の姿が見えた。
「すげーな。」
氷塊は、いち早く大気の水にざわめきを感じた冬獅郎が 身を守る為に形成したものだった。
「あ・・・・・・」
砂埃をはたきながら近づいてくる冬獅郎は 空座第一高等学校の制服を身にまとっていて 死覇装姿とは また感じが違って見えて新鮮だった。
の動悸が早くなる。
「な、何しに来たのさ!? あたしに近づいたら危ないんだからっ!」
「らしいな。」
不敵な笑みを浮かべた冬獅郎は 歩みを止めない。
「こっち来るな。大事な特訓の邪魔だ。」
冬獅郎は、の忠告を意に介さず近づいてくる。
「ばかっ! 来ンなっつってんだよー!!!」
叫んだの目と鼻の先に冬獅郎が瞬歩で 現れた。
「あ////・・・・・」
「何を 怯えている?」
「お、、、怯えてなんか・・・・」
まっすぐに澄んだ瞳が 痛い。
「うっ・・・・」
「、何があった?」
「な、なんでもないっ!」
冬獅郎がの手首をつかんだ。
「だったら、なんで震えてる?」
「・・・・・・・・」
「―――――話せ。」
は、自分の手が小刻みに震えている事など 指摘されるまで気付かなかった。
「ははっ・・・・なんでもお見通しってか? さすが 護廷十三隊・隊長を名乗るだけのコトはあるってわけだ。」
それには 応えず冬獅郎はを 彼女が躓いたベンチまで連れていって座らせた。
「ほらよ。今ので潰れてなきゃいいけどな。」
冬獅郎がの膝にコンビニの袋を置いた。
冷たい。
「なに?」
中に小さくなったドライアイスと バニラと書かれたカップアイスが一個入っていた。
「『アイスクリームの方が 好きだ』って、『次はアイスを買って来い』っつってたろ?」
冬獅郎が 涼しい顔で笑い返す。
は 胸の奥が暖まって溶かされていくのを感じ、
それでようやく 自分の心が 凍えて震えていたコトにも 気付いた。
目覚める?
10・DRAGON OF THE DIAMONDDUST
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