CONSTANT CHANGE〜生々流転〜


 

 08.A PRIVATE LESSON 











浦原商店の地下に作られた”勉強部屋”と呼ばれるだだっ広い空間は、どういう仕組みか、地下であるのにもかかわらず 常に日中の明るさが保たれていた。





太陽が昇ったり 沈んだりしないのだから当然なのだが、と言って 屋内のように照明が灯っていて 明るさを調整できるわけでもない。
しかも、学校も部活も塾も行かずに済み、友達と遊ぶことや見たいテレビを見ることも叶わず、生活リズムが乱れたからと言って叱る者も居ない。
それなら 好きなだけ起きていて 眠くなってから寝ても なんら問題はない。


全く ありえないほど自由な日々。


けれど は、そこに甘んじてはいけないと 己に言い聞かせる。
浦島太郎に なってはいけない。
いつか、地上での日常に戻れた時 ちゃんと 馴染んでいけるように かえって規則正しく暮らそうと思う。


だから、浦原に頼んで 狂うことの無い電波時計を手に入れた。


地下に電波は届かないので 何日かに一度、ウルルに頼んで地上で 電波を受信させ 時刻調整をしてもらった。


それでも、


時計に浮かぶ日付が進むにつれ 焦燥感が増し、さすがに気が滅入る。



そんな時 の心に浮かぶのは、自分よりも(見た目)小さいくせに、横柄な(本当は隊長なのだから当然なのだが)銀髪に黒い着物姿。


彼の美しい大きな瞳に 自分がだらしない”負け犬”として映るのだけはイヤだった。


会えない日々が重なるにつれ 本人の意思とは別に 冬獅郎がの心を占める割合も増していた。









時刻は 22時。


は、窓のカーテンをひいた。
眠くはなかったし、並みの高校生なら これから勉強を始めようかという時間。
戸外は 相変わらず明るくて、遮光カーテンと言えど 室内は薄明るい。


「テレビ、ネット、ゲームがあれば ここでの暮らしも そう 時化たものではないのに・・・・」 


布団に寝そべって 読みかけの本を開く。
目で字を追うが 心に何も届かない。




「面白いっスか?」




不意に 耳元に息がかかって 飛びのいた。


「大した瞬発力っすね♪」


浦原が 扇子を広げてニコニコしながら 布団に座っていた。


「あ、あ、あ、あ、あ、」
「『あんた、いつの間に?』っスか?」


部屋の隅に張り付くように身を引いたが、コクコクと小刻みに頷く。


「今、来たばかりですよぉ。」


その軽い口調に は 不信感を露わにする。


「このまま、読書を続けられますか? それとも 私とちょっとした”お遊び”なんかしてみませんかぁ?」
「お、お遊びって?」
「はい、あなたの力の制御に役立つと思いますよ。」


浦原は 意味ありげな笑みを浮かべながらに 近づくと その両手両足に科されていた霊診環を外した。


「もう必要ないです。大体把握できました。重要なのは あなたがその力を制御できるかどうかです。」 
「そう・・・。それで、あたしは何をすれば。」
「はい。まずは あたしと”目隠し鬼”です。」
「なんで?!」


身を引こうにも壁に後退を妨げられているに 恋人たちの距離にまで接近した浦原が ゆっくり囁いた。


「気配の察知を鍛えるのに最適なんスよ。」


は、全く二人っきりの空間で ココまで近寄られて平気でいられるほど大人ではない。
アドレナリンが脳を駆け巡って、どう切り抜けるか大忙しで検討していた。


「『きゃー、あたし喜助さんに 迫られてるぅ〜』とか。思ってます?」


指摘されたの顔が 紅くなった。


「あながち 間違ってやしませんよ。 出来るものなら 奪っちゃおっかなーなんて―――――」


浦原の頬をぶとうとしたの平手が 難なく捕らえられる。


「いい反射をしてますね。 持って生まれたモノなのか・・・或いは、バドミントンで鍛えられたモノなのか・・・。

いずれにせよ、あなた 強くなります。 今でも 充分 手出しできませんけど。」


「な、なに適当なコト言って!」


「本当です。

さん、あなた 市丸さんを吹き飛ばしたこと、忘れてないでしょ? 

いざ 身に危険を感じたら あの力が発動されて、コントロールできていないまま解放されれば
 あたしなんか あっという間に消し飛ンじゃいます。」


浦原が 握っていたの手首を 解放した。


「誰もあなたに手出しできない。 おわかりになったでしょうか?

 あなたの修行の相手は命賭けなんス。 あたしがやるしか無いでしょう。」


「なに・・・・それ・・・・・・」


何かされそうになったら すぐ対処できるよう 中腰で隙を伺っていたの足から力が抜けて 床にぺたんと尻をついた。


サン、気落ちすることないっスよ。 要は コントロールできるようになりゃいいだけのコトです。」


「でも・・・・」




浦原のことを油断ならない奴だと思っていても、だからって 消滅させてしまえばいいとまでは思っていない。
制御しきれていない力は、彼女自身にとっても恐怖だった。


「さ、こお見えてあたし、結構時間に追われてるんで さっさと始めましょう。

世間では 夜中ですが、明日 学校へ行くわけではないし なにより あなた 眠気がなくて お困りだったでしょ?」


浦原が 懐から日本手ぬぐいを取り出してに目隠しをした。


「いいですか、気配を探ってください。

 あなたの力は あなたの心の動きに連動する傾向がみられます。 気配を探ろうとすると 力がそこに集中してくるはず。 

周囲に張り巡らせる事も可能ですが うまく一箇所に凝縮できれば、形を成すかもしれない。」


言いながら 浦原はの手をひいて 戸外へ連れ出す。


なんの説明もなく ただ手を引くだけなので は 椅子につまづいたり 家具の角に足をぶつけたり、物につまづいたりしたが

 そのつど こけそうになるのを浦原が 支えた。




「要領は”目隠し鬼”とほぼ同じっス。

 異なるポイントは 二つ。

 ひとつは ここぞって言う時 以外 手は両脇にそろえていてください。 手で探っちゃ意味ないっスから。

もう一点は――――」


浦原が繋いでいる手を グっと引き寄せてを 抱き寄せた。


「あっ/////」
「あたしの気配が判らず タッチできなければ・・・・・」


浦原は の髪にCHUっと 軽くKISSした。


目隠しされてても それぐらいの気配はわかる。


「ちょっとぉっっ!」


が、手をあげるより先に 浦原が パッと距離をとった。


「あたしが ご褒美をいただく事になります。」
「えーっ!」


焦ったの両手が 空を泳いだ。


「だめだめ、それじゃ修行になりませんよ。」
「う〜〜〜〜っ。」


指摘されて は 両手を脇に下ろした。


「さあっって、次はどこを狙いましょうかね♪」


地下の荒野に 浦原の楽しそうな声が 響いた。








目覚める? 09.THE FREEZING FLOWER" 





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