真夏の白昼夢













ある夏の 昼下がり。










いつも通りの十番隊執務室。










「隊長ぉ、隊長ぉ!」






書類の山と格闘中の 日番谷は 眉間の皴を深くしただけで 応えない。


乱菊が この声色で 自分を呼ぶ時はろくでもない提案を思いついた時だと わかり過ぎるほどわかり切っていたからだ。




「海行きませんか? 海!」


乱菊は 日番谷が応えようと無視しようと お構いなしに 話し続ける。


「”夏”って 言ったら、やっぱり 海ですよ。」


旅行のパンフらしい雑誌を 眺めるのに忙しいらしく 日番谷の方を見ずに 話し続ける。


「女性死神協会の慰安旅行で 海水浴に行こうって企画が 挙がってんですけど、隊長なら 行っても問題ないと思うんですよね。」






―――――それは『”ボク”なら小さいから 女湯に入っても問題ないよ。』って、ヤツか?! もし そうなら たとえ副官でも 許さねぇっ!!






日番谷が顔を上げて睨んだのと、乱菊が 雑誌を閉じて日番谷に目を向けたのが 同時だった。


「隊長ぉ、聞いてますぅ?」   「行かねぇぞ。」
「楽しいですよぉ♪ ”スイカ割り”とかぁ――――」   「行かねぇ。」
「浜辺で食べる”かき氷”とかぁ―――――」    「行かねぇ。」
「買ってから後悔する”やきそば”とかぁ―――」  「行かねぇっつってんだろ!」
「え〜、水着の女の子が いっぱいですよぉ。」   「うるせぇ、仕事しろ!」
の水着姿、見たくないんですかぁ?」
「!!」
「この前現世で すっごいかわいい水着、買ってきたんですよ☆」
「―――――も行くのか?」
「当たり前じゃないですかぁ。一人で留守番させるつもりですか?」
「い、いや・・・・。」
「ね、行きましょうよぉ♪」
「し、、、仕事がたまってんだ! 行けるわけねぇだろっ!」
「残念〜。」
「わかったら、さっさと仕事しろ、仕事っ。」
「じゃ、代わりに花太郎でも誘おうかしらぁ。 恋次は・・・・ちょぉっと無理よね。」
「っ、てめぇ、人の話を――――」   「隊長ぉ、急用を 思い出しましたっ!」


乱菊は、きりっと敬礼すると あっという間に執務室を飛び出していった。






「聞いてねぇ・・・・・」





































照りつける太陽を仰いで は 額の汗を拭った。


「『日頃の巡廻が いざと言う時 異常を察知する基礎になる』って 言われても・・・ねぇ・・」


真夏の瀞霊廷内、熱い日差しの日中 通りを行く物好きなど流石に居ない。
そういう隙を狙って進入する者がないか 監視するのが 巡廻の意義だと日番谷は 言う。


「日焼けして 真っ黒になったら 責任とってくれるんだろうか?」


夏、球筋に影響するからと 窓を締め切って風を遮断した、オーブンのような体育館で、ラケットを振り シャトルを追っていたは、暑さに弱いわけではなかったが、人っ子一人通らない道を歩き続けるのは 退屈この上なかった。


「せめて、犬の散歩だったらな・・・。いや ダメだ、こんな熱い石畳を 歩かせたら 足に火傷させちゃうか。」


一人だと どうしても 独り言が 多くなってしまう。


「今度、現世で デジタルオーディオ買ってきてもらおっかな・・・。」


誰に頼もうかと 思い巡らせていると、揺らめく陽炎の向こうに、うずくまる人影が 目に入り、実体であるのかどうか考えるより先に 反射的に駆け寄っていた。


「どうした?!」


白い羽織の背中、長い白髪に見え隠れするのは どうやら”十三”の 文字。




―――――って、コトは・・・・十三番隊の隊長さん?だよね。なんで、お供も連れず こんなところに?




「――――あ・・・ちょっと・・・・」


苦しくて、声を出すのも辛そうで、額に手を 当ててみると 焼けるように熱かった。


「わかったから 喋らなくていい。楽にして。」


行き倒れていたその人物は 確かに十三番隊・隊長・浮竹十四郎だった。


浮竹は、の指示どおり なんとか身を起こすと 塀にもたれた。
は、ポーチから 手ぬぐいとミネラルウォーターを取り出すと その水で 手ぬぐいを濡らして 首筋――――頚動脈――――にあてて冷やし、着物の合わせを広げて 扇子で風を送った。


「え・・っと、水を飲んだ方がいいんだけど・・・飲めそう?」


病人が頷いたので は 背中に手を添え ペットボトルに残った水をゆっくり 少しづつ飲ませる。




それが、無くなると 次に もう一本ボトルを出した。


「これ、スポーツドリンクって言って 少し味がついてるけど、ミネラルとか入ってる機能飲料だから。」


一口飲んで 未知の味に驚いて吐き出さないように 説明してから 飲ませる。


こちらの生活にも慣れてきたので 現世の知識に個人差があると気付いていたのだ。











浮竹は スポーツドリンクを 飲み終えて 落ち着いたのか 大きく息をついて やっと 目を開いた。
身体の弱い浮竹は、暑さで眩暈を起こしたのがもとの症状で が 危惧した 熱中症自体は 軽かったらしい。


「もう大丈夫、楽になったよ、ありがとう。  君は?」


浮竹が 柔和な笑顔を に 向けた。


「十番隊末席・。 あなた、身体が弱そうなのに なんでこんな時間に うろついたりした? あのままだと 熱中症が 進行して 死ぬとこだったんだよ。 隊長が そんなんで死んだら 格好つかないんじゃない?」
「手厳しい末席さんだなぁ。」


浮竹が 弱々しく笑った。


「冗談じゃないんだ。 気をつけなきゃだめだよ。 お供は 居ないの?」
「言うと 出してもらえないから こっそり抜け出してきたんだ。・・・・それで バチがあたったかな。」


浮竹は 他人ごとのように 穏やかに 微笑んだ。


「それじゃ、あたし 誰か呼びに行くけど 一人にしても大丈夫?」
「やあ、その必要はなさそうだ。」


言い終わらないうちに 一陣の風と共に 隊士が二人現れた。


「隊長ー、探しましたよ!」  「すっごく 探しました!」
「私は その十倍探しました!!」   「私は その 百倍探しました!!!」
「いえ、私はその―――――」    「うざいっ! 黙れっ、バカ!!」


見知らぬ隊士に いきなり罵倒された 虎徹と小椿は唖然として凍りつき、浮竹は そのようすが 可笑しくて 笑いをかみ殺している。


「あたし、もう行くね。」


何もなかったかのように 立ち去ろうとするを 浮竹が 呼び止めた。


「すまないが、言づてを 頼まれてくれないか?」


「いいですけど・・・?」


浮竹が 風呂敷包みを 差し出した。


「コレを 日番谷クンに。」
「承知しました。たしかに 日番谷隊長に お渡しします。」


は、さくっと お辞儀をすると 踵を返して 立ち去った。




































数日後、早朝の十番隊執務室に 一人 机に向かう日番谷の姿があった。






ちょうど その日は 女性死神協会の慰安旅行の出発日だった。


仕事が溜まっているのは事実で、旅行になど行く余裕はない。
そうは言っても、が 行くというなら別の話で、同行する(荷物持ち、又は 荷物番とも言う)のが花太郎だとしても、の水着姿を見られるのでは と思うと気が気ではなく、おちおち寝ていられず いっそとの思いで 出勤したのだが、一向に筆は進まない。


「くそっ、松本の奴!」


こんなコトなら 恥を忍んででも 誘いにノルべきだったかと 自己嫌悪に陥りかけた日番谷を、扉のノックの音が救った。


「だれだ?」
「末席・でーす!」


その元気な声に日番谷は 自らの耳を 疑った。


「おっはよう!」


いつもと変わらぬが 入室した。


「あ、もう始めてた? すぐ お茶煎れるねっ。」


・・・・お前・・・・・慰安旅行とやらに行ったんじゃ・・・・」
「慰安旅行? ああ、乱菊さんたち 今日 出発だったね。・・・って、”日番谷隊長”・・・・・いつも 職務中は 馴れ馴れしい呼び方するなって うるさいくせに 今朝は 呼び捨て?」
「あ・・・すまん・・・じゃなくて、お前 旅行に誘われてたんじゃなかったのか?」
「誘われたよ。 でも・・・・」
「でも?・・・・・どうかしたのか?」
「乱菊さんが 買ってきてくれた水着、大きかったんだよね。 セパレートだったから・・・サイズ合わないのは ヤバイでしょ? 」


は そう言って意味ありげに 微笑んだ。


「”ヤバイ”って・・・・?」


間を置いて ようやくその理由に思い当たった日番谷は 思わず持っていた筆を 机上に落としてしまい、墨が 四方に―――書類の上にも――――飛び散った。


「「ぅわぁっ!!」」


日番谷は 慌てて、吸い取り紙で 書類に飛んだ墨を拭き、は 給湯室から布巾をとってきて 日番谷の白い羽織に飛んだ黒い点を 叩いた。


白い羽織に黒い墨が 残っては かっこ悪いと 夢中で 拭きとっていたが ふと気づくと 日番谷が手を止めて、を じっと 見下ろしていた。


途端に 胸が早鐘を打つ。


「ふ、布巾、絞ってくる。」


慌てて、立ち去ろうとするの手を 日番谷が 握った。  


「行くな」
「なんで? 早く拭き取らなきゃ シミが残るよ。」
「そんなコトはいい。」


澄んだ翡翠の瞳に射られて、は 絡め獲られたように動けなくなる。


「今日は、松本は 居ない。」
「だ、だから・・・・何・・・?」


窓に射す夏の朝の強い光に 銀の髪が眩しい。




「―――――








日番谷の手が の髪に触れ、その指が 愛おしそうに戯れる。  








の背中には隊長専用の机があって 逃げられない。






















日番谷が、顔を寄せてきた。

















夜、闇に紛れて 顔を寄せたことはあっても こんな明るい、相手の顔がよく見える、しかも執務室という状況。 



























――――だめだよ、それ以上近づいたら 心臓が 止まっちゃうよ。



























魅入られて、目を閉じる事さえできない。


























 持っていた布巾が 手を離れて 床に落ちた。



































「――――――・・・・オレは・・・お前が・・・・・・」




































互いの体温と息遣いに 痺れるほどの 距離に











 触れてもいない唇が 微かに震え











今 この時が 永遠にも感じられて











戻る事も往く事も叶わぬ











白昼夢に酔う――――

























































「・・・・・・・・・」






「・・・・・冬・・・獅・・・・郎・・・・・・」






























































魔法にかけられたように
















































 ゆっくり



























 目を




















閉じかけた時・・・・・・・・・・































































やけに響いたノックの音が 瞬く間に 二人を現実に引き戻した。





































「は、、はーい!」









は、日番谷の胸元から 身を放して 慌てて 扉を開けに 走る。























「くそっ!」









一言毒づいて、日番谷は 椅子に 身体を落とした。























「おはよう!」









にこにこしながら入ってきたのは 浮竹だった。


「この前 クンに 預けた菓子は 気に入ってくれたかい?」
「浮竹、オレは――――」   「クン、その節は 本当にありがとう。 はい、これ。」


浮竹がに手渡したのは きれいに洗濯されたの手ぬぐいだった。



「い、いえ。 あ、あの あたし お茶煎れてきます。」


は、さっき落とした布巾を拾って 給湯室へ駆けて行った。


浮竹は 名残惜しそうにの去った方を見てから 日番谷に向き直った。
日番谷は 不機嫌極まりない表情を浮かべている。


「どうした、日番谷、どこか具合でも悪いのか?」
「浮竹、手ぬぐい一枚返すのに わざわざ隊長のお前が足を運ぶ必要があんのか? 部下で 事足りるんじゃねぇのか?」
クンに直接 礼を言いたかったし、日番谷、君にも会いたかったんだ。 部下と代われるわけないじゃないか。」


浮竹は 今一度、の去ったあとに 視線を走らせる。




「――――彼女は、とても 魅力的だ。 ここに来る楽しみが増えた。」




目を細めて嬉しそうに微笑んだ浮竹とは 対照的に 日番谷は がっくりと机に突っ伏した。




「マジかよ・・・・浮竹も、なのか・・・・」






「どうした日番谷、大丈夫か? 四番隊を――――」   「呼ばんでいい。なんでもねぇよっ。」





























浮竹FANの皆様、ごめんなさいっ。



天然で お邪魔ムシな役回りをさせてしまって・・・・・・・・・。
「十番機」は、逆ハーでオールキャラ目指してるけれど 基本は”冬獅郎一途路線”なので ご了承くだされっ。







ところで、問題です。
Q.乱菊姉さんが、の 水着のサイズを 間違えたのは 何故でしょう?
1.単純ミス
2.わざと間違えて、と冬獅郎が自然と二人っきりになるよう仕向けた。
3.その他の理由


さあ、あなたなら どれだと思いますか?





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