07.THE STUDY ROOM
浦原商店で三つ巴の攻防があってから 数日が経った。
何事もなかったかのような平穏な日々は、にとって 変化向上娯楽の無い、単なる時間の浪費だった。
―――――いつか一人旅をしてみたいとか、広大な大平原でキャンプしてみたいとか思ってたけど・・・・・まさか こんな形で実現するとは・・・・・
見渡す限りの荒地にぽつんと一軒のプレハブ住宅。
その傍らに大きめのターフが張られ、キャンプ用のテーブルセット。
テーブルの上には、参考書が積まれている。
は、何度目かのため息をつく。
―――――これは ラッキーなんだと言えなくも無いような気もしないでも無いように思えなくもないんだけど・・・・って、退屈すぎて 脳が溶けかかってるよ・・・
は、浦原商店の地下にある”勉強部屋”に幽閉されていた。
浦原は彼女に不便がないように、仮設住宅を用意し 生活に必要なモノもそろえてくれたが 電気電波の類が使えないのは 決定的だった。
―――――受験勉強するには これほど恵まれた環境は ほかに無いと言えなくもないと思えなくもないような・・・・・って、やめやめ・・・
テーブルに広げたノートにぐるぐると落書きしてみる。
ジンタが店番をさぼって 遊びにくることもあったが、今日はまだだった。
―――――さぼりが バレて叱られたのかな? だったら 悪いな。
不意に視線を感じて 振り返ると 冬獅郎が立っていた。
「浦原のヤロー、ちっとは気を使ってくれてるみてーだな。」
そう言って、冬獅郎はターフの下に入ってくるとの 向かいに回った。
「元気そうだな。」
「そう見える? 退屈で死にそうなんだけど。」
「勉強やりゃいいじゃねーか?」
「それは言うな・・・・・わかってるよ、そんなこと。わかってても 出来ない事ってあるんだよぉっ。」
「オレに 八つ当たりすんじゃねー。」
「だったら、そんな親みたいにうざい話するなっ。」
あの日、あの後、『報告に行く』と言って姿を消して以来の冬獅郎に は 何故か苛立ちを覚え、泣きそうだった。
「悪かった。怒らせるつもりで来たんじゃねぇ。」
冬獅郎は 頭をがしがし掻いてから テーブルの上に がたんと何かを置いた。
”おでん缶”だった。
「なに?」
「おめー、好きなんだろ?」
「あ、いや・・・」
「初めて逢った時、美味いから食ってみろって 言ったろ?」
「それは・・・・そうだけど・・・・」
冬獅郎が 缶をあけて に差し出した。
「あ・・・ありがと」
戸惑いながら 缶に詰め込まれたおでんの具を見た。
見知らぬ路頭で 間違ってうっかり買った”おでん缶”。
なんだか 遠い昔のように思える。
―――――あんな事 覚えてくれてたんだ。
割り箸を折って はんぺんにかぶりつく。
一粒 涙が頬を伝って テーブルに落ちた。
「な、なんだ?不味かったか?」
「ううん・・・・おいしいよ・・」
は あわてて 涙を拭って 笑顔を見せようとする。
「そんなことより、”瀞霊廷”とかいうところへ報告に行ってきたんでしょ? どうだった?」
「ああ、由々しき事態ってことで 先遣隊が編成されることになった。」
「そうなんだ。・・・・で、君は?」
「多分、隊長に任命されるだろう。」
「そっか。」
は 口に放りこんだこんにゃくを 噛み締める。
「――――で?」
「あ?」
「あたしは・・・・そこの科学技術局とかいうところへ連行されるんだ。 危ない力を持ってるって・・・・・調べられるんだ・・・・」
俯いて、自分の手をみつめた。
「浦原から 何か聞かされたのか?」
「りりん達を 弾いたのも、市丸って死神を吹き飛ばしたのも あたしの持ってる特殊な”力”の為せる技だって。この霊診環に反応があったって。」
は 手首にはめられた数珠に似た装置を 玩ぶ。
「一般に言う霊力ともちょっと違うらしい。反物質のエネルギーで、受けた力を相殺または反発させる流転力。」
「ルテンリョク?」
「そ。 水が固化,液化,気化し ひとところに留まらず常に流れ 器の中にあっても対流し続けるように、 流転を促す力。・・・・・暴走すれば 全てを無に帰す、脅威の力。」
は、顔をあげて 冬獅郎を まっすぐに見た。
「 あたしが カリヤのドールを消滅させたのも 無意識にその流転力を使ったんだろうって言ってた。もともと 持ってはいたが 眠っていた流転力が あれをきっかけに 目覚めたんだろうって話。」
「そこまで 詳しく聞かされたのか・・・」
「自分のことだ。知る権利ある。・・・・正直ショックだけど。」
がんもどきを口に入れたが 味はよくわからなかった。
「おまけに そんな危険な力を 持ってるくせに制御できてないんだから、不発弾扱いされても文句言えないわけ。」
「納得したのか?」
「仕方ないじゃん。市丸って人を 吹き飛ばした時、感覚あったからね。」
―――――両手のひらが、一瞬にして空気に含まれる水分を圧縮し、蒸気に変えて噴出させた。 自分で自分は 誤魔化せない。
「だから、幽閉されても 連行されても 文句言えないわけ。一応、君たち死神が 世界の調和を保とうとしてる”正義の味方”らしいし。」
は 食べるのをやめた。
「玉子、好きだけど あげる。・・・・喉が詰まって食べられない。今度来る時は アイス買ってきて。・・・あたし 実は アイスクリームの方が好きなんだ。」
「・・・・・・・お前は それでいいのか?」
「え?アイスの事?」
「違う!身柄を更迭されることについてだ。」
「いいも悪いも 選択肢ないでしょ。 それに 本気で逃げようと思えば その”流転力”を行使して いつでも逃げられるわけだし。違う? 」
「オマエ、見かけに因らず 聡明なんだな。」
「あ、なんか ムカつく〜!」
「褒めたんだぜ?」
「違うだろっ! それって 今まで あたしの事、バカって思ってたってコトじゃん。」
「わりぃ、言い方 悪かったって。 怒んなよ。」
「ふん。――――それで、いつ あたしを 連行するの? 今日? 今から?」
「いや、もう暫らく ココにいてもらう。」
「どういう・・・・・・」
「実は・・・・オメーの事 報告してねぇんだ。」
「なんで?」
「報告した後の事を考えると 出来なかった。」
――――――あの不自然だった”朽木ルキア処刑”さえ 執行されようとした厳格さだ・・・・
「オメーの事 知ってる奴は、オレとココの連中だけだ。 浦原とも相談して、最善を尽くそうと思う。」
「えっと・・・・それって・・・・裏切り行為とかになんないの?」
「ふっ。 そうなるかもな。 ま、いざとなったら なにか口実を捻りだして どうにかするさ。」
「つまり、あたしの運命は君に委ねられたってわけ?」
「そういうわけだ。オレを ないがしろにすンなよ。」
冬獅郎が 不敵な笑みを浮かべる。
「え〜、それはそれで なんか やだなー。」
「まず、手始めに オレのことは ちゃんと”日番谷隊長”って 呼べ。」
「え〜〜!なんでぇ? あたし 別に君の部下じゃないしぃ。」
「最善を尽くすとは言ったが、オメーを 野放しにはできねぇんだ。それは わかるな?」
「わかるよ。バカじゃないから。この前みたいな連中に狙われて、あたしの力を悪用されたら困るってことでしょ?そういうことにでもなったら、報告の義務を怠った君にもそれ相応の処罰が下されかねないもんねぇ。」
「オマエ、笑ってるけど 冗談じゃねーんだぞ。」
「ってコトは、君があたしの事、一生面倒みるって―――――」
は、そこまで言って急に黙り込んだ。
事態の深刻さを紛らわせる為に ふざけた勢いで言いかけたものの その意味するところに思い至ると、急に動悸がして頭に血が上った。
「ああ、オレがずっと傍にいて守ってやる。 それが自然に映るよう、建て前上 オマエに オレの直属の部下になってもらうのが得策と考えた。だから―――――どうした? 顔、赤いぜ? どっか 具合悪いのか?」
「な、、、、なんでも ないっ! おでんで身体があったまったんだよ!!」
―――――『ずっと傍にいて守る』って・・・・・なんてすごい殺し文句を 無邪気に口にするんだ、バカヤロ〜〜
は 「年下だから射程外」と思ってた相手に どぎまぎさせられて 悔しかった。
そのうえ、いやな気分でないのが 腹立たしかった。
目覚める?
08. A PRIVATE LESSON
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