CONSTANT CHANGE〜生々流転〜


 

02・TAKE AWAY





は、遅刻だと言って、白髪の不思議な少年を残して立ち去ったのを 後悔していた。



―――なんだか、切羽詰った様子だった。最後まで 面倒見てやるべきだった?



塾へ行く気は、とおに失せ、心囚われたまま歩を進め 気づいた時には 見知らぬ住宅地に 迷い込んでいた。



―――あの子、着物を着て日本語を話してたけど、日本人じゃないかも……。



少年を 想いながら、駅へ向かう道を 探す。

が、駅前繁華街とは異なり 街灯少ない住宅地にあって、煌々と輝く自動販売機を見つけたは、ふらふらと 吸い寄せられる。

いつもと違う出来事に出会った所為もあって 喉の渇きを覚えたは、無意識に財布を取り出し コインを投入した。

出てきたのは、初夏だというのに あろうことか‘おでん缶'だった。


「え〜、マジ〜?!」


後悔、先に立たず。
実に恐ろしきは、住宅街の自動販売機。


「あんまり売れ行き悪くて、担当が サボったのか?」


独り言を呟きながら、鞄を脇に置いて 食べ始めた。



―――ふーん、これが秋葉原の味ね。案外イケル。



ごぼう天がお腹に納まり、こんにゃくを銜えたところで視線を感じ、顔をあげると いつからいたのか 先ほどの少年が 眉間に皺を寄せ 腕を組み、不機嫌そうに立っていた。


「塾とやらに行くんじゃなかったのか?」
「……なんか、行く気 なくなっちゃって。」
「焦っていたわりには、いい加減だな。」
「あははは、そう言われても仕方ないな、この状況では……。そうだ、これ、食べてみ。結構、美味しいよ。」


は、まだ半分は残っている‘おでん缶’を 冬獅郎の手に 押し付けた。


「なんだ?」
「‘おでん’だよ、‘おでんの缶詰’。お腹 空いてない?」


冬獅郎は、の突拍子のない言動に面食らい‘おでん缶’と、を交互に見た。
冬獅郎の大きな瞳に 街灯の灯りが キラキラと 映りこんで、エメラルドのように輝き、黄昏に白く見えた髪は 青みがかった銀色で、端正な顔立ちと 似合っていた。



―――こんな綺麗な男の子、見たこと無い。どこから来たんだろ……?



「君ね、あたしの事、‘貴様’って呼んでるけど、あれ 失礼だから。初対面の女性に『何者だ?』は、ないでしょ?名前が知りたいなら、まず 自分から 名乗ってよね。」
「うむ、確かに一理ある。事態が切迫していたとはいえ、失礼だったと認めよう。―――俺は、護廷十三隊・十番隊・隊長・日番谷冬獅郎だ。」
「五手?十三体?……十番体??ごめん、わかんないや……じゃ、そゆ事で……。」


は、ラケットと鞄を拾い上げると くるっと向きを変えた。


「ちょっと、待て。」
「何?なんか、まだ用?」
「貴様の番だ。」
「あ、あたし?」


顔だけ振り返って 答える。


「あたしは、そんじょそこらに いくらでも居る ただの女子高生。特徴をあげるなら、未だ、受験勉強に身が入らず 部活に現を抜かしている”馬鹿な子”よ。」


 そう、言い捨てるや否や 唐突にダッシュで駆け出した。




 バドミントンで鍛えた瞬発力に自信のあるは、’おでん缶’というハンデを負わした小生意気な小学生如きに 後れを取るとは 思いもしなかったので、一区画先の道の真ん中に その姿を認めた時には、正直『ヤバイ』と思った。




「―――礼を欠いているのは、貴様の方だぞ。」
「君ねぇ……こんな時間にウロウロしている怪しげな男の子に声掛けられて 素直に答えるような危険を冒すほど、私は おバカではないの!」
「怪しいのは 貴様の方だ。カリヤが 末期に分離したドールを、貴様は 粉砕し 吸収した。ただの女子高生であるわけがねぇ!」



―――さっきの”風”って、ヤバイモノだった?そういや、目に見える風なんて変だし……なんか、まとわりつくみたいな感じだったな……。でも、結局は 消えちゃったわけだし、無問題よ。



は、色々 思うことは あったが、”厄介事は御免”という気持ちが 勝っていた。


「どういう事か、解るよう 説明しろ。」
「あーーー!あたしが あげた”おでん缶”、どうしちゃったわけ? 持って無いじゃん! まだ、玉子 残ってたのに〜〜!」


は、唐突に 素っ頓狂な叫びを あげた。


 冬獅郎の気を逸らすのと 騒ぎを聞きつけた住民が 顔を覗かせるのを 狙ったのだが、冬獅郎は 「もう その手は食わん。」と 仏頂面で腕を組んだまま、周辺の家々の窓も 開かない。



―――見て見ぬ振りってわけ? 世知辛い世の中だこと。



は、地面に鞄を置き ラケットをケースから出して 構えた。



―――この子は、普通の人間じゃないかも……フェイントかけて ダッシュしても 逃げ切れないなんて。……でも、自分で自分を 守るしかない。



グリップに 汗が滲む。


は、冬獅郎を睨みつけて 間合いを計る。


自分の抵抗が 虚しいものと悟りつつも、相手のペースに巻き込まれるのは 気に食わない。



「“カリヤ”って、何?借家のことでしょ?ドールは、人形だし……てんで、分けわかんない。悪いけど、あたし ホント 何のことかさっぱりなんだ。」


冬獅郎の 心の奥まで見透かすように冴え切った瞳が、氷のように美しく を 捕らえる。
は まるで 蜘蛛の糸に絡み取られた蝶のように 身動き取れない。




それでも―――負けたくない と 思う。


が バトミントンの試合で 競り勝つ内に身につけた性分だった。


「し、知らない、本当に何も知らないんだから!」
「―――ならば……」


 次の瞬間、は しっかり握っていたはずのラケットを 叩き落され、身体が 宙に舞うのを 感じた。




気がついた時には、両足をガッチリ掴まれて 冬獅郎の肩に 担がれていた。


「ち、ちょっと、何これ?放して!放してってばー!!」


は、自由な両手で 冬獅郎の背中を 叩き続ける。




「こらっ、バカ!下ろせー!!」




の叫びが、虚しく夜空に 響いた。
















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