01・CROSSING
「大失態だ。」
―――災厄を 回避出来たからと言って、気の緩みでは 済まされない。
冬獅郎は、現世の都会にあって 比較的視野の開ける片側二車線の交差点中央に立ち、暮れなずむ空を 見上げていた。
夕刻のスクランブル交差点は、先を急ぐ人の波が 足早に 流れていく。
「くそっ!確かに、地上付近にまで 下りたように見えたが…」
霊圧で探れない以上、視覚に頼らざるを得ない。
目を凝らすが、刻々と色を変えゆく 光と闇の交差する時間帯では 判別し辛かった。
―――今 一度、上から捜すか。
そう考えた冬獅郎が 適切な方角を見定めるべく、視線を走らせたその時、
「バカ!赤に変わる!」
罵倒と共に 腕をグイッとつかまれて 引きずられるように 歩道へ連れて行かれた。
クラクションが鳴り響き 車が流れ始める。
「何、しやがる!」
見ると、どこか高校の制服と思われる姿の少女が 膝に手を当て俯き、肩で息をしている。
は 冬獅郎の声に 顔を上げた。
「はあ?あんた、もう少しで 車に轢かれるトコだったんだよ!人の途切れた交差点の真ん中で ぼんやりしてるあんたに、誰も注意する様子が無いから 慌てて 猛ダッシュで 助けに行ってやったんじゃない!あたしが こんなに俊足じゃなかったら、今頃 あんた ミンチよ?―――あーっと、違うか……。ホントは あたしが、見たくなかったんだ。小柄な爺さんが 目の前で弾き飛ばされるの。だって、目撃証言とか 面倒くさそうだし、夢見に悪いし、……と思ったら、白髪のガキ?なんで、そんな黒くて地味な着物 着てる?てっきり、爺さんだと思った。あんた、何?いいとこの坊ちゃんなわけ?迷子?家出?そこの交番まで 連れてってあげよか?」
早口でまくしたてられて圧倒され 言葉を挟めずにいた冬獅郎だったが、ここで重大な事に 気がついた。
「―――貴様、俺の姿が 見えるのか?」
「何、言ってんの?見えたから、助けたんじゃない?今時、目が良いのも自慢なの。見ずに済んだなら 済ましたかったよ。困ってないなら、もう行くね。塾に遅れちゃうから。あんたも早く帰りな。あんた、結構かわいいから、誘拐されちゃうよ。」
は、踵を返した。
「おい、待て。」
今度は、冬獅郎が の腕をとって 引き止めた。
「何?やっぱり、心細い?」
「そうじゃねぇ。貴様、俺の姿が見えるなら、今すぐここを立ち去れ。」
「へ?どういう―――」
「説明しても、理解できないだろうから、あえてしねぇ。厄介事に巻き込まれたくなかったら、家に帰って隠れていろ。」
「―――あたしが、さっき言ったこと、聞いてなかった?これから、塾なの。帰れるわけないじゃん。」
は、冬獅郎の腕を払って、逃れようとしたが、にわかに 空気が重くなったのに 気づいた。
「やはり、下りていやがった。寄生先を 物色してやがったんだ。」
冬獅郎は、を庇うように 前に出た。
冬獅郎の霊圧が 上がり始める。
「何?」
は、冬獅郎の小柄な背中越しに その目線を追う。
いつもの日暮れ、いつもの町並み、いつもの人ごみ……その中に いつもと チガウモノを 見た。
逆巻き、縦横無尽に飛び回る”目に見える風”。
冬獅郎は、斬魄刀を 抜いた。
「ちょっと 待って それ、真剣?だめだ、街中にそんなの 持って来ちゃ!」
「うるせぇっ!黙れ!」
冬獅郎は、左右にふりつつ迫りくる”目に見える風”に向かって 構える。
……が、どうにも霊圧の上がりが悪い。
―――どういう、事だ?
「あの”風”、やばいの?だったら、お姉さんに任せなさい。」
背中に隠していたはずの彼女は、冬獅郎の止める間もなく”目に見える風”に向かって突進していった。
「貴様、やめろー!」
次の瞬間、耳に聞こえぬ音を発して “目に見える風”は 何かに激突し、四散して の周りを 浮遊していた。
―――なんだ?何が起こった?
護廷十三隊十番隊隊長であり ”天才児”と、謳われる日番谷冬獅郎をもってして 予想できなかった事態。
―――俺の姿が見える程度の霊力の ただの人間が……?
唖然とする冬獅郎の目の前で 四散した”目に見える風”が、かき消えた。
「―――貴様、いったい何者だ?」
「失礼だな!こっちからも風を送って、風の‘目’を乱しただけ。台風や竜巻って’目‘が壊れると 消滅するでしょ?いけなかった?」
「何か‘得物’を持っていたのか?」
「‘得物’……?ああ、得意とする武器の事?うん、あたしの武器は コレ。」
は ケロッとして、手にしているモノを 掲げて見せた。
「そ、それは……?」
「バドミントンのラケット。特注品。あたし、こう見えても インターハイ目指してんだよ。あんたは、その物騒な刀、通報されないうちに 早くしまいな。じゃ、マジ遅刻だし、あたし、行くね。」
早口で説明しながら、ラケットをケースに入れて、重そうな鞄を手に 人ごみに向かう。
「特撮ごっこ、面白かった。お蔭で、気分が晴れた。サンキュ!気をつけて帰りなよー。」
遠ざかりながら そう言うのが 聞こえた。
疾風のようには去り、冬獅郎は 後に残された。
―――俺が追ってきたのは、カリヤの末期に 奴の一部をまとって分離した ドールだった。旋風じゃない……。
刀を 鞘に納めた音で ふと 我に返る。
―――あの女、まさかバウント?!カリヤの切り札か何かだったのか?
冬獅郎は、焦った。
―――俺としたことが、二度も 失態を 演じたのか?
心落ち着け、霊圧を探る。
さほど強い霊圧ではなかったが、捉えることは できた。
もし、彼女がバウントならば 霊圧は測れないはず。
―――矛盾している。
冬獅郎は、つかみどころの無い苛立ちとともに、の霊圧を追った。
目覚める
02・TAKE AWAY
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