七夕が 嫌いだった。
陰暦七月七日夜、天の川を隔てて輝く、 牽牛星と 織女星が 一年に 一度だけ逢うことを許されるという 中国の伝説...。
幼かりし日 は 年に一度の二人の逢瀬を 祈って 笹飾りを 懸命に作った。
なのに、
肝心の 七月七日
晴れたキレイな星空を
天の川を挟んで輝く 牽牛星/わし座のアルタイルと 織女星/琴座のベガを 見た覚えがない。
一年 待ち続けた一夜なのに、雨が降ったり 雲が 天の川を隠しただけで 会えないなんて、理不尽だ。
織女星のことを想って 泣いた時も あった。
は 七夕祭が 嫌いだった。
「………
? ………!」
「あ、はいっ。」
「書けた?」
乱菊サンの声に、現実に引き戻された。
ぼんやり 磨り続けた墨は 充分・・・・というより、必要以上に どろっと濃い目に出来上がっている。
目の前には、二枚の短冊。
このところ 女性死神の間で 『好きな人と両思いになれる確率100%』と、まことしやかに囁かれている”おまじない”が あった。
それは
――――自分の名前と 好きな人の名前を別々に書いた二枚の短冊を 向かい合わせに貼り合わせて 七夕の笹に結びつけておく。
そうしておいて、七夕の夜、天の川の光の下で その人と 一つの”モノ”を 分かち合う―――――というもの。
―――――天の川の下で、二人っきりって時点で すでに 恋人同士なんじゃないの?
なぜか、少しイジワルな気持ちになる。
「あら、まだなの?・・・・あんた 書く”相手”、決まってンだから さっさと書いちゃいなさいよ。」
――――決まってるって・・・・・?
好きだったあの人は 現世にいるから、今夜二人で 星を見上げるなんて アリエナイ・・・・・って、”好きだった”・・・・???
過去形?
って、今は そうでもないのか?
あれ?
―――――それじゃ、ダレ?
「あの・・・乱菊サンは、もう書いたんですか?」
「私は、いいのよぉ。」
「あぁーっ、ズル!あたしには『女性死神は全員参加って決まってるんだ』とか 言ったくせにぃ。」
乱菊サンの表情が 微妙に翳ったようにみえた。
―――――しまったっ。
乱菊サンの好きな人は、今は敵になってしまった、幼馴染・・・
「ごめんなさい・・・」
あたしは、筆を手にとって 短冊に向き直る。
「っ」
突然、後頭部に乱菊サンの弾力を感じた。
「なんで、あんたがしょんぼりするの?」
「え・・・・だって・・・・」
会えるのが 一年にたった一夜だったとしても、牽牛星と織女星は 互いを信じ 愛し合ってる。
会えない時間も 互いを想い続ける。
それは
実は、とても 幸せなコト。
「――――そうねぇ・・・・・・・結構 長い付き合いだったから、全て わかってるつもりだったんだけどね・・・・・・」
「・・・・・・・」
「結局――――信じあい 分かり合えるってのは、過ごした時間の長さで決まるモノじゃないってトコかしらね」
背中に乱菊サンを感じながら、思う。
顔が 見えなくてよかった。
あたしは、どんな顔をすればいいのかわからないし、乱菊さんは きっと どんな顔をしているか 見られたくないはず。
話してもらえないのは、寂しい。
想いが伝わらないのは、苦しい。
置いていかれるのは―――――
「そうだっ!隊長の名前、書いちゃおっかな♪」
――――え?
”隊長”って・・・・”隊長”って・・・・
「うちの隊長って、あれで 結っ構ぉ 人気あるのよぉ。、どうするぅ?」
肩越しに 顔を覗きこまれたので ぷいっとそっぽを向く。
「そ、そぉなんですか?へぇ〜、全然知らなかった。意外〜〜。」
チビッコなだけで―――それだって、かわゆく見えるってことだし―――優秀だし、かっこいいし、真面目でよく働いてくれて、そのうえ ああ見えて 案外優しいし・・・・。
雑魚が 何人 彼のことを好きでも、全然 気にならない。
気になるのは、
乱菊サンと彼の 上司と部下を 越えた仲の良さ。
それと
今なお 病床にある”彼の大事な掛けがえの無い女性”。
そこまで、考えたら 胸が ぎゅっと 痛んだ。
「あ、あたし、やっぱり やめます。考えたら あたし 本物の死神じゃないし・・・」
筆を置き、乱菊サンをはねのけて 部屋を出る。
「どうしたの?っ、ちょっと 待ちなさいってば、どこいくのよぉ!」

――――そうだよ。
死神間のおまじないが 普通人間のあたしに 効果あるわけないじゃん。
目的も あてもなく ズンズン歩く。
彼が・・・・
冬獅郎が あたしに優しくするのは、あたしを不憫に思うからだ。
特殊な、そして 少なからず危険な霊力を持っているが為、瀞霊廷に無期限幽閉されるあたしに 同情するからだ。
歯の浮くような甘い言葉を、
『守ってやる』って強い言葉を、
いくつも あたしにくれたけど
でも
一番大事なその言葉は もらってない。
”好き”―――――そうか
あたしが 今 好きなのは、
冬獅郎なんだ・・・・・・
バカだな、あたしって。
わかってたくせに 自分を偽って 誤魔化していた。
だって、この恋は 身分が違いすぎる。
叶うわけないから。
柚羽です。
七夕がらみの軽い短編にするつもりが、書き出すと また いつものようにキャラが どんどん主張し始めて、やっぱり 長くなってしまった。
折角なので、このまま気合こめて 突っ走りますよ〜☆
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